特定の居住用財産の買換え特例を徹底解説
マイホームを売却して新しいマイホームに買い替える際、売却益(譲渡益)が出ると、通常はその利益に対して譲渡所得税が課税されます。しかし、この税金を繰り延べることができる非常に有利な特例があります。それが、「特定の居住用財産の買換え特例」です。
本記事では、この特例の内容と適用要件、そして具体的な計算方法について、添付された資料に基づき、分かりやすく解説します。
1. 買換え特例の概要(譲渡益の繰り延べ)
(1) 内容
個人が居住用財産を買い替えた場合、一定の要件に該当すると、譲渡収入のうち買い換えた部分の金額は、その金額がなかったものとして譲渡所得の計算ができます(100%課税の繰り延べ、後半に計算例あり)。
この特例の最大のメリットは、売却によって生じた譲渡益の課税を将来に繰り延べられる点にあります。ただし、課税が免除されるわけではなく、将来、買い換えた資産を売却する際に、繰り延べられた課税が持ち越されます。
なお、買換え資産を譲渡する際には、元の資産の取得費は引き継がれますが、取得日は引き継がれません。
(2) 他の特例との併用
この特例は、以下の特例とは併用できません。
- 「居住用財産の3,000万円特別控除」
- 「軽減税率の特例」
ポイント:譲渡益が3,000万円以下で、かつ売却後の税金負担をゼロにしたい場合は「3,000万円特別控除」を、譲渡益が大きく、かつ将来的に売却する予定がない場合は「買換え特例」を選択するなど、状況に応じた検討が必要です。
2. 買換え特例の適用要件
この特例を受けるためには、譲渡資産(売却するマイホーム)と買換え資産(新しく購入するマイホーム)の両方について、以下の要件を満たす必要があります。
(1) 譲渡資産の要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 所有期間 | 譲渡した年の1月1日において10年超(通算10年以上) |
| 居住期間 | 売却時まで引き続き居住しているか、居住しなくなった日以後3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡であること。 |
| 譲渡対価 | 1億円以下 |
| 適用期間 | 2025年12月31日までの譲渡 |
(2) 買換え資産の要件
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 面積 | 家屋の床面積:50㎡以下 |
| 敷地 | 敷地の面積:500㎡以下 |
| 物件種別 | 居住用財産(既存住宅の場合は築25年以内であるか、または一定の耐震基準を満たすものであること) |
| 取得時期 | 譲渡した年の前年、譲渡した年、譲渡の翌年末まで |
| 居住時期 | 譲渡した年の翌年末までに居住すること。(譲渡の翌年中に取得した場合は、取得した年の翌年末までに居住すること) |
これらの要件は非常に細かく定められています。特に面積要件や取得・居住の期限は厳格に守る必要があります。
3. 特例の計算方法(譲渡益の繰り延べ額)
譲渡資産の価格と買換え資産の価格の関係によって、繰り延べられる譲渡益の額が変わります。
(1) 買換え資産の価格 > 譲渡資産の価格 の場合
買換え資産の価格が譲渡資産の価格よりも高い場合は、譲渡益は全額繰り延べられます。この場合、売却益に対する課税は発生しません。
(2) 買換え資産の価格 < 譲渡資産の価格 の場合
買換え資産の価格が譲渡資産の価格よりも低い場合は、譲渡益の一部が課税対象となります。この場合、以下の計算式によって課税される金額を求めます。
課税対象となる譲渡益の計算式
課税長期譲渡所得金額 = 譲渡益 × (収入金額 - 買換え資産の取得価額) ÷ 収入金額
※ 収入金額 = 譲渡資産の譲渡価額
買換え特例のイメージ
譲渡資産の譲渡価額が8,000万円、買換え資産の取得価額が6,000万円の場合を考えます。
- 譲渡価額8,000万円のうち、買換えに充てた6,000万円部分にかかる譲渡益は繰り延べられます。
- 買換えに充てなかった差額2,000万円に対応する譲渡益だけが、繰り延べられずに課税されます。
4. 計算例
次の例で、買換え特例を適用した場合の所得税・住民税の合計額を計算してみましょう(特例の適用要件は満たしているものとします)。
| 譲渡資産 | 買換資産 |
|---|---|
| 譲渡価額:8,000万円 | 取得価額:6,000万円 |
| 取得費:不明 | |
| 譲渡費用:300万円 |
計算ステップ
① 収入金額(課税対象となる部分)
譲渡価額 - 買換資産の取得価額 = 8,000万円 - 6,000万円 = 2,000万円
② 取得費 + 譲渡費用(課税対象部分に対応する経費)
まず、概算取得費を計算します: 8,000万円 × 5% = 400万円
総経費:400万円 + 300万円 = 700万円
課税対象部分に対応する経費:
700万円 × (2,000万円 ÷ 8,000万円) = 175万円
③ 課税長期譲渡所得金額
① 収入金額 - ② 経費 = 2,000万円 - 175万円 = 1,825万円
④ 所得税(復興特別所得税含む)・住民税の合計額
③ 課税長期譲渡所得金額 × 20.315% = 1,825万円 × 20.315% = 3,707,487.5円
結果:3,707,400円(税額は100円未満切捨て)
5. 特例が受けられない場合
以下のいずれかに該当する場合、買換え特例の適用は受けられません。
- 配偶者、直系尊属、生計を一にする親族等、特別な関係にある者への譲渡
- 「収用等による譲渡」や「特定事業用資産の買換え・交換の特例」を受けている場合など
- その前年または前々年に「居住用財産の3,000万円特別控除」や「軽減税率の特例」を受けている場合
- 買換え資産の面積要件(床面積50㎡以下、敷地500㎡以下)を満たさない場合
- 譲渡資産の譲渡対価が1億円を超える場合
「課税の持ち越し」の具体的な意味
繰り延べられた課税が新しい資産に「持ち越される」とは、売却した古い家の譲渡益が、新しく買った家の「取得費(買ったときの価格)」に反映されることを意味します。
この特例を適用すると、新しい家の取得費は、実際に支払った金額ではなく、税務上の計算で低い金額に調整されます。
【具体例で理解する課税の持ち越し】
以下の条件で、特例を利用した場合と利用しなかった場合を比較します。
| 項目 | 旧居(売却した家) | 新居(買い換えた家) |
|---|---|---|
| 購入価格(取得費) | 1,000万円 | 5,000万円 |
| 売却価格 | 4,000万円 | – |
| 譲渡益 | 3,000万円 (4,000万円 – 1,000万円) | – |
ケースA:特例を「利用しなかった」場合
| 項目 | 旧居の売却時 | 新居の将来の売却時 |
|---|---|---|
| 今回の課税 | 譲渡益3,000万円に課税される | – |
| 新居の税務上の取得費 | – | 5,000万円(実際に支払った金額) |
| 将来の譲渡益(例:7,000万円で売却) | – | 2,000万円 (7,000万円 – 5,000万円) に課税 |
| 合計課税対象額 | 3,000万円 + 2,000万円 = 5,000万円 | |
ケースB:特例を「利用した」場合
特例を利用すると、旧居の譲渡益3,000万円に対する課税は繰り延べられます。
- 旧居の売却時: 課税はゼロ。
- 新居の税務上の取得費の計算:
- 新居の取得費 5,000万円 – 旧居の譲渡益 3,000万円 = 2,000万円
- つまり、税務上、新居を2,000万円で買ったと見なされます。
| 項目 | 旧居の売却時 | 新居の将来の売却時 |
|---|---|---|
| 今回の課税 | 課税は繰り延べられる(ゼロ) | – |
| 新居の税務上の取得費 | – | 2,000万円(調整後の金額) |
| 将来の譲渡益(例:7,000万円で売却) | – | 5,000万円 (7,000万円 – 2,000万円) に課税 |
| 合計課税対象額 | 0円 + 5,000万円 = 5,000万円 | |
上記の比較から分かるように、特例を利用した場合、将来の新居売却時に課税される譲渡益は5,000万円となり、特例を利用しなかった場合の合計課税対象額5,000万円と同額になります。つまり、旧居の譲渡益3,000万円に対する課税が、新居の取得費を減らすという形で「新居の売却時」に持ち越されたことになります。
この特例は、税金を減らすのではなく、納税のタイミングを遅らせる(繰り延べる)ことで、手元資金を確保し、スムーズな住み替えを支援するための制度です。
この特例の適用を受けるためには、必ず確定申告が必要です。また、特例を選択するかどうかは、将来の資産計画や税負担を総合的に考慮して判断する必要があります。専門家と相談の上、ご自身の状況に最適な選択をしてください。